経済学の勉強をかじり始めた筆者です。
ちょっとアグレッシブなタイトルにしてしまいましたが、生産性向上の学術に関する真面目な記事です。
全般において能力差のある人同士であっても、「特化」と「交易」によって双方が利益を得られる。
ということについて勉強しましたのでこれを紹介したいと思います。
能力差があるのは仕方ない
仕事にしろ学校にしろ、他者との共同作業を経験したことのない人はいないでしょう。
当然のことながら、人には得意・不得意があります。これがはっきりしている場合、
- タイピングが得意なAさんに全てのデータ入力作業は任せ、その解析は数学が得意なBさんが担当する。
といった形で分業することに利益があることはどなたも理解していただけると思います。
しかし、
- あの人は何をさせても自分より要領は悪い。全部自分でやった方が効率が良いや!
- あの人は何をさせても自分より要領が良い。作業効率を下げるのは申し訳ないから、邪魔しないで自分の作業に集中しよう・・・
といった経験はないでしょうか。
例えばホヤホヤの新入社員(部下)に比べれば、経験の豊富な上司は何をするにしても生産性が高いでしょう。
こんな場合、上司と部下が分業すると、一見
「部下は得をするが、上司が損をするじゃないか!」
と思われるかもしれませんが、実は両者が得をする道があるのです!
本当に全部自分でやったほうが効率的?
具体例を考えましょう。
上司と部下
上司と部下がそれぞれ書類Aと書類Bを作成する能力は以下とします。
書類A | 書類B | |
上司の生産性 | 6枚/時間 | 4枚/時間 |
部下の生産性 | 3枚/時間 | 1枚/時間 |
さすが上司は、書類A、Bともに部下よりも効率よく作成することができるようです。
上司の生産性
さて、1日の勤務は8時間とし、上司の生産性を詳しくみてみましょう。
- 上司が書類Aだけ8時間作り続けたとすると、書類Aが48枚できます。
- 上司が書類Bだけ8時間作り続けたとすると、書類Bは32枚できます。
同時に2つの書類を作成することはできませんので、上司は書類Aと書類Bの作成時間を配分する必要があります。例えば、
- 上司が書類Aに2時間、書類Bに6時間費やすと、書類Aが12枚、書類Bが24枚できます。
このような組み合わせは無限に存在しますが、一般に、
- a-b平面の第一象限において、a切片が48、b切片が32の1次関数を書く。
- b = (-2/3) a + 32
- この直線が上司の生産性の限界を示し、直線上の1点(a,b)を選ぶと書類A、Bの枚数の組み合わせを選ぶことになります。
(もちろん上司がサボれは、b ≦ (-2/3) a + 32、a ≧ 0、b ≧ 0の領域内の任意の点に落ち着きます。正確には、上司が生産できるのはこの領域内の任意の点(a,b)の組み合わせです。)
部下の生産性
同様に、部下の生産性を詳しくみてみましょう。
- 部下が書類Aだけ8時間作り続けたとすると、書類Aが24枚できます。
- 部下が書類Bだけ8時間作り続けたとすると、書類Bは8枚できます。
- 部下が書類Aに2時間、書類Bに6時間費やすと、書類Aが4枚、書類Bが6枚できます。
直感的にも、何をするにしても上司の方が生産性が高いことはご理解いただけるでしょう。
部下の生産性の限界を示す一次関数は、
- b = (-1/3) a + 8
となり、上司の1次関数と比較すれば、A,Bどんな時間配分で頑張っても、上司の方が生産性が高いのは明らかです。
部下は肩を落としてしまいました。
上司の提案
ここで切れ者の上司が、部下に対して以下のような提案をしました。
- 君は書類Aを(1日で24枚)ひたすら作り、私は書類Bを(1日で32枚)ひたすら作る。
- 1日の終わりに、君の作った書類A15枚と私の作った書類B7枚を交換しよう。
さて、交換まで終えて、一日の終わりに上司と部下が手にした書類は以下です。
- 上司・・・書類Aを15枚、書類Bを25枚
- 部下・・・書類Aを9枚、書類Bを7枚
- トータル・・・書類Aを24枚、書類Bを32枚
ここで、上司と部下がそれぞれ書類A、Bの作成に勤しんだ場合の一例を思い出しましょう。
- 上司・・・書類Aを12枚、書類Bが24枚(2時間+6時間)
- 部下・・・書類Aを4枚、書類Bを6枚(2時間+6時間)
- トータル・・・書類Aを16枚、書類Bを30枚
・・・あれ?
上司の提案によって、部下だけでなく、上司の生産性までも向上したのが一目瞭然でしょう。
その証拠に、上司の手にした書類(12,26)をグラフ上にプロットしてみると、その点は上司の生産性の限界を示す一次関数より右上に位置していることがわかります。限界突破です。
トータルでの書類作成枚数も明らかに増大しています。
特化と交易によって、上司にとっても、部下にとっても、会社にとってもwin-win-winな関係を築くことができたのです。
何故に「特化と交易」が便益を高めるか
一見すると、何をするにしても生産性の高い上司が、そうでない部下と手を組むと、上司は損をするように感じるかもしれません。
しかし、上手く手を組むことで、双方がそれぞれ自分の限界以上を生産することができるのです。
上司・部下の生産性を書類Bに注目してさらに分析してみましょう。
- 上司は、書類Bを1枚作るために、書類Aを1.5枚諦めなければなりません。
- 部下は、書類Bを1枚作るために、書類Aを3枚諦めなければなりません。
「書類Aを費用(犠牲)にして書類Bを作る」ということにかけては、上司の方が2倍得意なようです。
一方、書類Aに注目してみると、
- 上司は、書類Aを1枚作るために、書類Bを2/3枚諦めなければなりません。
- 部下は、書類Aを1枚作るために、書類Bを1/3枚諦めなければなりません。
「書類Bを費用(犠牲)にして書類Aを作る」ということにかけては、部下の方が2倍得意なようです。
AかBいずかを作る際には、それに費やす時間で作れるはずだったもう片方の書類を諦めなければならない訳です。
上記のように、その「犠牲」の少なさという点でその人がA・Bどちらを作ることが得意かを明らかにすることができます。
今回は、部下がより書類Aを得意としており、上司がより書類Bを得意としていることがわかりました。
であれば、
- 書類Aは部下に任せ、書類Bは上司に任せる。
という特化を施行し、
- 上司が書類Aを欲すれば、書類Bを対価に部下と交換する。
- 部下が書類Bを欲すれば、書類Aを対価に上司と交換する。
という取引を行った方が、
全体としての生産性が高まるというわけです。
ちなみに、上司・部下がお互いに得をする交換レートとしては、
- 上司は、書類Bを1枚作るために、書類Aを1.5枚諦めなければなりません。
- 部下は、書類Bを1枚作るために、書類Aを3枚諦めなければなりません。
という状況から、「書類B1枚に対して、書類A1.5枚〜3枚」の設定が望ましくなります。
(この範囲を逸脱すると、どちらかが損をすることになります。)
まとめ
経済学において、以上の考え方は、例えば
「各国が得意な分野の財・サービスの生産に特化し、交易(=貿易)によってそれを適切なレートで交換することで、双方の利益を高めることができる」
という当たり前にも思える事実を数学的に裏付けます。
しかしながら、仕事を始めとする日常生活にも活用できる場面は多いと思います。
文系教養の勉強や資産運用の準備にと思って始めた経済学ですが、想像以上に実生活に繋がる面白いものでした。
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