※この記事はシリーズ「USMLE STEP1 合格体験記」の一部です。
日本の医学生の間でも認知度が高まりつつあるUSMLEですが、日本の医学部に通っている以上、医師国家試験への対策(日本で仕事をするための準備)を疎かにしてはならないと考えます。
USMLE認知度の高まり
かつての日本の医学部では、「USMLEを受験する」「USMLEの対策をする」というと、稀有な存在としてみられ、場合によっては「日本人のくせになんだ」という視線を向けられることもあったようです。そもそもUSMLEが何たるかを知らない学生が多かったでしょう。
ところが昨今では、各大学、各学年少なくとも1人は熱意に差はあれUSMLEに興味を持って勉強しているくらいにはなっているのではないかと思います。
本格的に渡米を考えていない学生であっても、とりあえず勉強を始めてみる日本の医学生も少なくないのではないかと感じています。
私立大学の中でUSMLEを受験することを標準的な課程として組み込む大学が出現するなど、大学単位での広まりも始まっています。
USMLE受験の意義は?
筆者はUSMLE受験の意義について、以下のようなものが挙げられると考えています。
- 米国で臨床研修を行う権利(ECGMG certificate)を得られる
- 医学✕英語を勉強できる
- 臨床医学と基礎医学の関連を勉強できる(特にSTEP1)
- 知識量・努力量の証明となる
- 自己肯定感・満足感を得られる
本来、資格というのは、修練が必要な事柄(職業など)を十分に遂行する技量があることを証明し、それを行う許諾を得るために取得するものだと思います。平たく言えば、資格やそのための試験は道具の一つに過ぎないのです。
ECFMG certificate(資格)も、それを得るためのUSMLE(試験)も、米国でインターンまたはレジデンシーを行うことを目的として、その達成のために取得・受験するものです。
当たり前のことですが、USMLE受験の真の意義は、一番上に記した、
「米国で臨床研修を行う権利(ECGMG certificate)を得られる」
ということのみであって、それ以外にはありません。
しかし、USMLEの受験・合格を目指す日本人は、決して「絶対に米国で臨床研修を行う」と心に決めている人ばかりではありません。
その理由は、日本人にとって真の意義以外にも、上述の通りUSMLEの勉強を通して得られるメリットが複数存在するからです。かくいう私もこれを享受することを望んで勉強をはじめました。
米国に目を向けるのも悪くない、しかし・・・
USMLEの勉強を通して、資格としての意義以外のメリットを享受することは大いに結構であると思いますが、注意しなければならない点も複数あると思います。
勉強効率の問題
日本語での勉強を最優先とすべき理由でもっとも重要なのがこれ。「勉強効率」の問題です。
「USMLE対策を始める!」
そう思い立った方の多くはまずUSMLE用の問題集や参考書を手に取ることが多いですが、ここで一歩立ち止まらなければなりません。
というのは、純ジャパニーズにとっては大抵の場合において、まず日本語で勉強して土台を築く方が効率が良いからです。
例として、英単語の勉強を考えてみましょう。
高校での受験勉強時代、「英単語は英英辞典で調べましょう」と指導され、実践してみた方は結構多いのではないでしょうか。
しかし、これは英語教育を生業とするプロの意見であって、純日本人ホヤホヤの私達にとっては、非常に重荷で骨の折れる作業です。知らない単語を調べるという作業が既にストレスなのに、それを英語で遂行するというダブルストレスにさらされ、モチベーション継続も非常に難しい諸行です。
諦めて、英和辞典で意味を調べてみると、「日本語ですら意味をよく知らない概念だった」ということも往々にしてあるのです。
母国語ですら概念をしらないものを、慣れない英語で勉強するなど、非効率の極みではないでしょうか。
お気づきと思いますが、医学の勉強にも全く同じことが言えるわけです。
もちろん「時間がかかっても良いから英語でコツコツ調べながら勉強すること自体が重要なのだ」という意見もあるでしょう。しかし私は、
- 上述の真の意義(=米国で臨床研修をする)のために受験すると心に決めており
- 対策に十分な時間をかけることができ、
- 英語の扱いに相当慣れている(日本語を用いた際と同程度以上の速度で知識を吸収できる。
という3条件を満たさない限りは、まず日本語で医学を勉強し、その上でUSMLEに視野を広げる方が良いのではと考えます。
USMLE STEP1の出題範囲は「基礎医学」とされていますが、問題文は臨床ベースであり、医師国家試験レベルの疾患や臨床知識も出題されます。
(CBTでは出題されないけど、医師国家試験では出題される疾患や病態は複数ありますが、STEP1ではこういったものも容赦なく出題されます。)
「いやいや、とりあえずやってみることが大事でしょ!英語に浸って勉強してナンボでしょ!」と思われた方もいらっしゃると思いますが、必要な学習量は尋常ではありません。一度立ち止まって考えてみて下さい。
実際に少しやってみるという手もありますが、オンライン問題集は利用期間に応じておカネがかかりますし、参考書は改訂が多く最新のものを利用した方が良いとされています。特に費用面にも不安のある方は、「結局日本語で勉強することになって、見切り発車でお金を無駄にした」ということのないよう慎重になることをおすすめします。
国試対策における精神的な問題
日本の医学生がUSMLEの勉強を頑張り出すのは、往々にして高学年になってからのことが多いです。
想像してみてください。周りが医師国家試験の対策に本腰を入れ、友達同士で国試対策の進捗や模試の成績などについて語り合っている中、これを横目にUSMLEの勉強もしている自分は平常心でいられるでしょうか。
「周りと同じことをすれば良い」とされている日本の医師国家試験対策において、この状況は確実に大きな不安となるはずで、張り切ってUSMLEの勉強を始めたのに挫折する人も少なくないでしょう。
逆に「国試対策は目処がついている」という後ろ盾があれば、周りの様子に動じることなく対策を進められるはずです。そのためには、早い段階で「今受験すれば合格はできるかな」ぐらいのレベルに到達しておく必要があるでしょう。
対策上のテクニカルな問題
日本の医師国家試験とUSMLEを比較すると、いくつかの違いが挙げられます。
根本からの相違点
そもそも日本と米国では疫学や公衆衛生に関わる制度上の相違点が少なからず存在します。
日本ではほとんどお目にかからない疾患が米国ではむしろメジャーな疾患であることの少なくなく、その逆もまた然りです。
疫学上の問題のみならず、医療制度にも相違点が少なからずあり、またその根底にある倫理的な考え方も若干異なったりします。STEP1のBehavioral Scienceなどが良い例だと思います。
出題上の相違点
出題傾向としての相違点もいくつか挙げられます。
筆者はUSMLEも日本の医師国家試験も一定量以上の演習を行った自負がありますが、精通しておかなければならない知識には少しズレがあります。
例えば医師国家試験で見かけるApgar Scoreはいくつか?などといった問題は、USMLEでは一切出題されず、その代わりじゃあその次は何するの?というところに主眼が置かれます。
試験の優劣を言っているわけではなく、単に国ごとに重要視されている(医師になる者に求められる)知識範囲に相違があるという意味です。
将来の勤務地の問題
将来、日本国内を主たる勤務地と考えるならば、上述のような疫学・制度を含めて、日本固有のものも大切にすべきではないでしょうか。
今後日本人は減る一方という見立てには賛同しますが、日本の公用語は日本語であり続けると思いますし、日本の医療はまだまだ日本人が担っていくことになるでしょう。
医療者(医師、コメディカル)も患者も母語を日本語としている中で、英語で勉強した素地をファーストとすることがあれば、コミュニケーション上の問題を生じかねません。
別に英語で勉強したところで日本語ができなくなるわけじゃないんですが、例えば「医師がカルテに書く略語が分からず意思疎通が取りにくい」などといった声はあちこちで聞かれます。
加えて、「日本の医学部の学生である」という事実も重要です。日本の医学部や医科大学には、将来日本で勤務する医師を養成していることを前提として公費または補助金が投入されており、学生がその恩恵を受けていることは紛れもありません。
日本で医療を担う医師を養成することを主たる目的とする日本の医学部で学ぶ以上、まずその義務を果たさなければならないというのも自然な考えであり、「医師国家試験で求められる能力を目指して勉強する」ということがその具体的行動でしょう。
もちろんその過程で海外に目を向け研鑽を積むことは素晴らしいことですし、医療先進国から日本へ技術を輸入する過程の一手段としては重要ですが、将来的に母国の医療やその成長に貢献するためには、やはりそのための土台を第一に考えると良いのではないでしょうか。
まとめ
USMLE対策は結構なことですが、純ジャパニーズにとってはまず日本語で勉強して基礎を作った方が効率も良く、日本の医師国家試験合格という最低ラインへの到達を担保できるということ。
また、日本の医学部で医師としての礎を築く以上、日本の医師国家試験合格を見据えて勉強することが大切であり、研鑽の過程で海外に眼を向けることも良いが、いずれにせよ母国の医療レベルの向上に寄与する土台や姿勢を大切にしたいですね、という提案でした。
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