(※この記事は、シリーズ「医学部医学科の合格者に告ぐ。」の一部です。)
「医学生病」は、ICD-11(国際疾病分類第11版)やDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)といった正式な疾病には規定されない、「病気もどき」ですが、時として医学生や研修医の頭を悩ませる重大な問題となります。
今回はその「医学生病」について紹介します。
医学生病 Medical Students’ Disease
医学生病(Medical Students’ Disease)は、端的に言えば、
ふむふむ、こういう病気があるのね・・・
ん?この症状自分にもあるなぁ・・・
あれ?言われてみればこういう症状もあるかも・・・?
!?!?僕この病気なんじゃない!?
大丈夫かなぁ・・・病院行ったほうがいいかなぁ(ソワソワ
という疾患(?)です。
笑い話にも聞こえますし、実際に最終的には笑い話で終わることも多いのですが、自分が重大な疾患なのではないかと心配になり始めると、些細な体の変化に過度に注目し、ますますその疾患なのではないかと不安になりドツボにはまっていくこともあるようで、精神衛生上看過できない状況に陥ることもゼロではないようです。
また、医学の勉強をされていない方でも、テレビやインターネットで重大な病気を知り、その症状が自分にも当てはまるのではないかと心配になり、更に調べて心配になり、という経験のある方も多いと思います。
医学生病の病態生理?
冗談のような疾患(?)ではありますが、医学生や研修医が、「自分がこの病気なのではないか?自分の症状はこの病気に当てはまるのではないか?」と不安を抱きやすいことについては100年以上前から議論があったようです。
たしかに、医学生病(Medical Students’ Disease)はインターン症候群Intern’s Syndromeなど様々な異名を持ち、これについて真面目に論じた論文も1900年代から少なからず存在します。
(以下では「医学生病」という言葉を統一して用いますが、正式な疾患名ではないことをご了承下さい。)
精神科領域の近しい疾患としては、「病気不安症(illness anxiety disorder)」が挙げられます。
病気不安症とは、「自らが重大な疾病に罹患しているのではないか」と深刻に心配しており、日常生活にも支障をきたすような精神障害を指します。特に、十分に医学的検索を行った上でその疾病に罹患していることが否定されても、それを信じることができず、医学的検索を求めるエピソードが特徴的であるとされます。また、逆にその疾病であるという事実に向き合うことを恐れ、医学的検索の機会(健康診断など)を避ける場合も存在するようです。
もちろん、医学の勉強をきっかけとして、日常生活に支障をきたす程のの状況に陥ることはあると思われますが、大抵の場合は、その不安からちょっと詳しく調べてみるとか、些細な体調な変化に敏感になるとか、多忙のうちに忘れてしまうようなレベルの不安に留まることが多いため、単なる不安や限局性の恐怖症と捉える考え方もあるようです。
重大な疾患とその症状を勉強すれば、多少なりとも自分がその疾病なのではないかと考えることは当然といえば当然です。中にはそれにやや敏感になる学生もいるが、健全な不安の範囲内ということでしょう。
医学生病への対処法
筆者も高学年になり様々な疾患について勉強するうちに、特定の疾患が心配になり、そのときに抱えている小さな体の不調がその疾患の症状なのではないかと不安になることは多々ありました。
そういった症状について気にすれば気にするほど、ますますその症状が強くなるように感じられたりして、近医を受診したり、大学の先生に尋ねたこともあります。
(具体的に不安になった疾患を紹介しようとも思いましたが、新たな医学生病を作りかねないので割愛することにします(笑))
恥ずかしながら、結局いずれも自分の見当は見事に外れており、診ていただいた先生にはご迷惑をおかけすることになってしまいました。
と、自虐的に紹介して参りましたが、同じように不安に駆られたことのある医学生も少なくないのではないかと推察します。
実際、お世話になった先生も「不安になって相談に来る学生さんは実は結構いるんだよ」と教えていただきました。
私が学んだ教訓は2つです。
医学生病は正常な心理反応であると心得る
先述の通り、重大な疾患とその症状について勉強し、それを自分に投影して考え、心当たりに気づいて不安になるというのはごく正常な反応であるように思います。
「病」という言い方をするから良くないのかもしれませんが、誰もが通りうる道であることを知っておくだけで、必要以上の不安に駆られることもなくなるかも知れません。
心配しているだけでは状況は良くも悪くもならないのですから、「気にしない」というスキルも大切です。
些細な体調変化はむしろ大切にする
不安に駆られて仕方なくなる医学生が存在する一方で、体の不調を感じたとしても医療機関を受診するまでには大きな労力を要する方も多いのではないでしょうか。
何をするにも体が資本ですので、若いうちから些細な体調変化に気を配っておくことは何ら悪いことではありません。
体の異常を放置したまま不安に駆られる毎日を過ごすくらいであれば、些細な不安でもかかりつけ医に相談する方がよどど健康的です。
それくらい自分の健康を顧みる習慣がなければ、歳を重ね多忙を極めたときに、本当の不調を見過ごすことになるやもしれません。
まとめ
「医学生燃え尽き症候群」と並んで重要な「医学生病」について紹介しました。

熱心に勉強すればするほど不安を生む奇病ですが、自分の健康を顧みること自体は決して悪いことではありません。
確かに考え過ぎは良くないかもしれませんが、「医者の不養生」と言われぬため、健康に医師人生を終えるためにも、自分の些細な体調変化に気づけるような素地を作っておきたいものです。
(※この記事は、シリーズ「医学部医学科の合格者に告ぐ。」の一部です。)

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