しかし一般に、「外科医は器用なもの」と考えるのは普通だと思います。
「器用でないと外科医にはなれない」
4年間と少しの医学部生活の中で起こしていた最大の勘違いだったようです。
オペは腕ではない
私は、折り紙ですら上手に折れない、恥ずかしながら、お箸を器用に扱うのも苦手、男のロマン・プラモデルに見向きもしなかった私は生粋の不器用です。
入学当初というかもはや医師を志したころから、「自分は絶対外科や手術には向いていない」と思っていました。
不器用であることを理由に、自分の将来の志望として、「外科」のつく診療科はすべて除外されていました。
自分の親ほどのご年齢の、ある外科医とお話させていただいたときのこと。
何気ない会話の中で、
「どうも不器用だけは克服できなくて、手術してナンボの外科は向いてないと思うんですよね・・・」
という言葉が口をついて出ました。
今思えば外科医を前にして失言だったのかもしれません。その返答が衝撃的でした。
「外科医は腕じゃなくて、頭を使って手術してるんだよ」
はっとさせられた瞬間でした。
無論、「外科医は手術中頭を使っていない」と思ったことなど一度もないですが、しかしやはり手元に目がいってしまうし、内科系より外科系の方が体育会系のイメージはありました。
臨床実習中の学生としてオペは何件も見学させていただきましたが、基本的な術式ですら危うい外科志望でない学生にとっては、外科医の手元を追っていくのが精一杯で、その意図が何たるかなど考えたことすらありませんでした。
話によると、外科医は手と同じかそれ以上の回転数で頭を使っているとのこと。
麻酔科医に丸投げせずに全身状態に気を配りながら、滞りなく進捗させるためオペ室全体のマネジメントもしながら、術前にイメージしてきた内容と現状を照らし合わせ、常に先を読むという大きな枠組みから、これが起こったらどう術式を変えるか、次に必要なことは何か、そのために今しておくべきことはなにか、動作一つ一つを無駄なく・効率良く、しかし正確に行うためにはどうしたら良いか、という秒単位の判断まで、全て並行して行っているのです。
もちろん手先の技術も必要なのでしょうが、頭が使えなければ外科医としてお話にならないということだと思います。
語弊を恐れずに言えば、外科医を志望する者の資質として、
「不器用でも外科医になれるが、バカでは外科医になれない」
とういことなのだと思います。
その話を伺って、外科医に対する印象が180°変わりました。
いわば「外科の食わず嫌い」だった筆者自身も、少しだけ手術術式や外科手技に興味を持てるようになったし、見学者として術中も色々なことを考えるようになったように感じます。
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