(※この記事は、シリーズ「医学部医学科の合格者に告ぐ。」の一部です。)
今回はやや専門的なお話となるかもしれませんが、「EBM」とか「論文の集め方・読み方」の重要性についてお伝えします。
EBMってなに?
唐突にEBMと言われても、「何の文字の羅列ですか?」と思われる方も多いでしょう。
しかし、今後医学生として、医師として生きていく上で大変重要な概念ですので、是非ここで覚えて帰っていただければと思います。
EBMってなに!?
EBMとは、「Evidence Based Medicine」の略で、日本語にすると「科学的根拠に基づく医療」のことを指します。
単純な例を考えてみましょう。
ある疾患Xの治療薬として、治療法Aと治療法Bがあるとして、患者さんに「どちらも良いので、成績が良い方の治療をお願いします」と言われたとします。
このとき、医師が「私の経験では治療法Aの方が成績が良いので、こちらにしましょうか」と話が進むことがあるかもしれません。(経験に基づく治療=Experience Based Medicine)
確かに、この医師が、疾患Xについて第一人者的な存在であるような場合には、その経験は信頼できるものかもしれません。
しかし、誰もが自分の疾患の第一人者から治療を受けられるとは限りませんし。いくら詳しい医師が「この治療が良い」と主張してもそれは個人の経験の域を脱しません。
そこで、個人の経験よりも信頼に足る拠り所、第一人者でなくても最良の医療を提供するための拠り所が必要となります。
その拠り所となるのが、「科学的根拠=Evidence」であり、これに基づく医療のことを「Evidence Based Medicine」と呼ぶのです。
Evidenceはどのように作られるか
その「信頼できる拠り所=Evidence」はどのように作られるのでしょうか。
予想のつく方も多いと思いますが、Evidenceは「臨床研究」に基づいて構築されるのです。
先の例でいえば、多数の疾患Xの患者さんに対して同意を得た上で、治療Aを受ける群と治療Bを受ける群に分け、それぞれの治療の方法もはっきりと統一した上で、各群の成績(例えば5年生存率や無再発生存率など、比較する成果を決める)を比較するなどが考えられます。
このようにすることで、比較する成績をはっきりさせ、より多くの標本を用いて、標準化された方法で、優劣を比較することができます。
これが論文として発表され、個人の経験をはるかに上回る強い根拠が世に出回ることになるのです。
また、こういった研究を複数集めて解析することで、より多くの標本を用いて成績を比較し、さらにさらに強い根拠をもって治療の優劣をはっきりさせることもできます。
ここではかなり簡単に述べています。実臨床では治療Aと治療Bのどちらが良いか?という単純なお話では済まないことが多いですし、方法や統計など実際にはかなり複雑な処理をしており、時間も膨大にかかります。
ここまでで、EBMと同時に、そのEvidenceをつくる「臨床研究」の重要性も理解して頂けたのではないでしょうか。
Evidenceにどのようにアクセスするか
世界中から発表されるこれらEvidence(例えば、疾患Xには治療Bより治療Aの方が良いみたいだぞ!といった)情報を、一般の臨床医はどのように得ているのでしょうか。
先に少し触れましたが、一般の臨床医がEvidenceを知る主なツールは「論文」です。
世界各地で日夜様々な臨床研究が行われているわけですが、こういったものは上述の通り論文にまとめられて「論文雑誌」なるものに掲載され、世界に発信されます。
以前は本物の雑誌のように、紙媒体で出版されていましたが、近年ではインターネット上で閲覧できるものがほとんどとなりました。
医学の公用語は英語ですし、権威のある論文雑誌に掲載されるには、言語が英語であることは最低条件といっても過言ではありません。
したがって、世に出回る多くの論文は基本的には英語で執筆されるのです。
この点で、英語で論文を読み解釈するリテラシーの重要性もご理解いただける思います。
学生のうちから医学論文に慣れておく
無償で提供される医学論文も少なくなく、インターネット上のサイトで検索すれば閲覧できるものもあります。
その検索サービスとして最も有名なのが、「PubMed」です。アメリカ国立医学図書館が運営している検索サービスで、各雑誌の論文と概要などが登録されています。
しかし、通常論文雑誌は購入するものですので、インターネット上でも閲覧するには購読のための費用が必要となることが多いです。(PubMedで検索し概要を表示させることは可能だが、論文自体を読むのにはお金がかかる。)
自分でこの購読料・ライセンス料を支払うにはお金がかかりすぎますが、多くの大学・医療機関ではこのライセンスを施設として購読し、その構成員に提供しています。
したがって、医学部に在学していれば、自分でライセンス料を支払わなくても、上述のような論文にアクセスすることが可能となるのです。
せっかく大学に在学していて、論文にアクセスできる権利を与えられているのですから、在学中から論文を読むリテラシーを鍛えておくことは大変重要であるように思います。
おまけ
論文雑誌のライセンスに限らず、その他医学系の多くの有料サービスについて、大学または大学病院が施設として購読し、そのライセンスを学生にも開放している大学は少なくないです。
例えば、「UpToDate」は、様々な項目(疾患や病態)について、最新の医学論文の知見を集約し、教科書的に細目ごとにまとめてくれているサービスです。医学論文が一次情報源であることに対比して、こういったサービスは二次情報源と表現されます。
臨床で疑問が生じたときに、まずはこういったサービスで該当する項目の概要を調べ、ここからその根拠となっている最新の論文へ飛んでいくという使用法も可能です。
その他、二次情報源として有名なサイトとして、「DynaMed」があります。
もちろん「教科書」も体系的に医学情報が記載されている情報源であり、体系的に学ぶ良い資料ですが、最新情報が反映されるスピードはUpToDateやDynaMedといったサービスには劣るでしょう。
こういった情報サービスへのアクセス権について知らない高学年の医学生も存在しますし、「もっと早く知っておけば」という後悔も聞かれます。
各大学で、このような情報を鋭敏に集め、構成員としての権利を存分に活用して将来の診療に活用できると良いですね。
まとめ
やや専門的な話となってしまいましたが、「Evidence Based Medicine=科学的根拠に基づく医療」がどのように成り立っているかをご理解いただけたと思います。
また、将来医師として診療する上で、EBMが無縁の概念ではないこともご理解いただけたでしょう。
是非学生のうちから大学構成員としての権利を駆使して、このようなEBMの実践の一端に慣れておくことをおすすめします。
(※この記事は、シリーズ「医学部医学科の合格者に告ぐ。」の一部です。)
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