※この記事はシリーズ「USMLE STEP1 合格体験記」の一部です。
ご存知の通り、世界中の最先端の情報はみな英語でかわされており、医学も例外ではありません。論文やレビュー、教科書を読んでいち早く自身の診療に活かすためには英語力は必須とされてきました。
日本語監訳本や翻訳など様々なお助けツールを利用できる中、今後も英語で医学を学ぶメリットはあるのでしょうか。
英語なしに医学を実践することができるか?
「わからない英単語が出てきたら毎回調べればいいのでは?」
早く読めるに越したことはない
まず、何より、いちいち調べていたらめんどくさいですよね。スラスラと英語の文献をそのままに読めるに越したことはないわけです。そういう意味で、英語で医学を勉強することはメリットとなることは言うまでもありません。運転教本を見ながら車を運転する人がいないのと似ています。
独特のニュアンスを理解する
また、英語での特有の言葉の言い回しや表現があります。
- 例えば略語。略語が短すぎて普通に調べてもなかなかヒットしない・・・。普通に調べていたらかなり時間を要しますが、USMLEの問題集等には文脈があったり、また略語に説明書きがあり、へぇ〜と思うことがよくあります。
- 病名においても日米のニュアンスが異なる場合があります。例えば、日本では「イレウス」というと、何らかの病態で腸管内容物が停留する状況を指し、これには機械的な異常(腸管が捻れたなど)と機能的な異常(腸管の蠕動運動が停止した)との両方を含む概念とされてきました。ところが、米国では前者を「obstruction(腸閉塞)」、後者を「ileus(イレウス)」と明確に分けて扱われます。この例も含め、こういった解離は統一される方向に向かっていますが、まだ完全ではありません。
略語や専門用語問わず、こういった臨床の場での言葉の雰囲気(抽象的で申し訳ないですが)そういうものを感じ取ることができるのは、医学を英語で学ぶことの良さです。
「日本語版の教科書を使えばいいのではないか?」
このような意見も聞こえてきそうです。
日本には今まで英語文献を比較的早い段階(それでも数年のスパンがありますが)で日本語に翻訳するだけの供給キャパシティとその需要があったのだと思います。しかし、今後は必ずしもそういうわけにはいかないと考えています。
日本語版の教科書の供給が低下する
理由は2つ。日本の人口減少・少子高齢化と、医学の専門化・細分化の加速です。
このままでは日本人の生産年齢人口が減少していくことに間違いはありません。日本語を母語とする人が減るのだから、供給が減るのは当然です。
もちろん翻訳技術は発達するでしょうが、誤訳の問題はついてまわること間違いありません。少なくとも私が生きている間は、「翻訳」はあくまで言語補助ツールの域にに留まると思います。
仮に完璧な翻訳ができたとしても、そのコンピュータを利用する責任は人間に課されるのですから、書かれた言語のままで理解し、細かいニュアンスや内容を誤りなく理解することは重要でありつづけるでしょう。
また医学書の場合、その翻訳の多くを医療者・医学者が担っている現実も忘れられません。医学部の定員自体は増加傾向にありますから一概には言えませんが、後述する医学の専門化・細分化も合間って、医学書の翻訳は長期的に厳しい状況に置かれると予想しています。
医学を母語ではない英語で教育している途上国も少なくありませんが、今後の日本は翻訳という情報技術を伴いながらもその方向へ逆行していくのではないでしょうか。
ここに拍車をかけるのが医学の専門化・細分化です。
とにかくたくさんの領域が生じ、それぞれで成果が進歩しています。今までは各領域について日本に第一人者がいて、この方々を中心に日本の医療レベルが維持されてたところもあったでしょう。ところが、専門性がどんどん増える中で、かならずしもこの広がりに日本のすべての領域で追いつくことができるとは限らないでしょう。
日本語版の教科書の需要が低下する
日本語を母語とする人が減ることに伴い、日本語版の教科書の供給とともに需要も低下します。
私は中学生・高校生を中心の学習塾でアルバイトをしていた経緯がありますが、自分の時代とは色の異なる方向へ進みつつあるのが肌で感じられます。
中でも進歩が目覚ましいのが英語教育で、大学入試はもはや「Reading中心でおまけ程度にListening+Writingをやっとけばいい」という時代ではなくなりつつあります。
ご存知の方も多いと思いますが、大学入試においては外部試験(英検、TOEFL、TOEIC等)も交えて、4技能を課す方向に話が進んでいます。
今後日本の医学界を担う若者は、一世代上に比べれば格段に英語に対する「苦手意識」を克服しているでしょう。
そうなれば、わざわざ日本語版の教科書なんて読まずに、「新しいことが載っていて、筆者の意図が直接読み取れて、翻訳分の価格が上乗せされていない原著を読んだ方が良い」と考える人が増えることが予想できます。
実際、微妙な(?)英語教育を受けてきたゆとり教育の最後の産物たる私であっても、USMLEの勉強をしたことで医学成書などはまず原著で読むようになりました。
USMLEの勉強で医学英語が身につく!
USMLEの勉強の根幹は、大量の問題を英語で(しかも短時間で)解くことにあり、否が応でも英語と向き合わねばなりません。英語文献を読むことについて、USMLE STEP1の勉強をしてよかったことを以下に列挙します。
- そもそも英語に対する抵抗がなくなった。
- 英語を読む速度が格段に上昇した。
- 日本語でヒットしないことは英語で検索するようになった。
- 成書は原著を参照するようになった。
- UpToDate®などのソースを知り、これを活用できるようになった。
- 実習で各科をローテした際、英語に基づく略語や専門用語がわかるようになった。
- 論文抄読会を恐れなくなった。
- PubMedを引く機会が増えた。Pubmedの使い方を覚えた。
- 文献を批判的に検討し、より信憑性の高い情報の獲得を目指せるようになった。
などなど枚挙に暇がありません。読者の皆様も是非英語で医学を勉強する機会を持たれてはいかがでしょうか。
(※この記事はシリーズ「USMLE STEP1 合格体験記」の一部です。)
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