(※この記事は、シリーズ「医学部医学科の合格者に告ぐ。」の一部です。)
医学生にとって、アルバイトは修学費その他を得るために、その生活の一定部分を占める大切な営みとなることが多いです。
今回は、医学生のアルバイト事情や、アルバイトを選ぶに際しての個人的見解を紹介します。
医学生のアルバイト
良き選手が良きコーチとなるとは限らないのと同様、医学生であるから勉強を教えるのが上手とは限りません。
しかし、難関と言われている医学部入試を突破した大学生ですから、受験産業から引く手数多であるのは事実です。
直近で大学入試を乗り越えた医学生から直接教えを請うことができるのは、医学部を目指す中学生・高校生にとっては魅力的であり、医学生講師というブランドは、受験産業では確かに良い宣伝広告となるようです。
ということもあってか、医学生を比較的高待遇で雇用してくれるところも多く、やはり受験産業のアルバイトに従事する医学生が少なくありません。
大手予備校のチューターから、個別指導、家庭教師まで、その雇用形態は様々です。また、模試や答案の採点・添削のアルバイトもあります。
どうせ働くなら自己研鑽を
以降は私見ですが、お付き合いいただきたいと思います。
上述のように、医学生は比較的高給でアルバイトとして雇われることが多いのは事実ですが、その上にあぐらをかいて座るようではもったいないのはでないでしょうか。
筆者の周りでは、
「質問が来たときだけ対応して、そうじゃないときは自分の勉強してるよ〜。その間も給料出るからいいよねぇ〜」
という主旨の話をいくつも聞いたことがあります。
別に雇用主がこれを是としているならば、アルバイトとしてはその責務を果たしているのですから、こういった「ユルい」感じを良いとか悪いとか言っているわけではありません。むしろユルく学生の相手をしてそれなりの給料を頂けるなら、「お金を作る」ということに限っては素晴らしい方法です。
しかし、筆者としては「どうせ働くなら自己研鑽も兼ねれば良いのに」と思います。
医学部という狭いコミュニティから出ずに生活していると、「世間知らず」「常識知らず」のまま医師になり、ゆくゆく大きな怪我をする、とよく言われます。私も賛成です。
教育関係の仕事をしていれば、小学生・中学生・高校生を相手に教えることで、難しい概念を噛み砕いて説明したり、これくらいの年代の子供達の相手をする力は身につくかもしれません。
しかし、相手は自分自身が小学生・中学生・高校生だったときに交流のあった人々と属性が変わらないのも事実です。
「教える」ということも大切な能力ですが、大学生としてアルバイトをする中で、得られる能力や見聞は他にもたくさんあるわけで、せっかくアルバイトをするならこれを鍛えないではもったいないのではないかと思うのです。
具体的に例を挙げてみましょう。
電話での応対能力について。電話口でのやりとりの経験のないまま医師になって、口頭だけで上手にコミュニケーションが取れるでしょうか。電話口での患者・その家族に対する説明や言葉遣いがおぼつかなければいくら医学的な技量が高くても信頼を得られないかもしれません。
接客サービス・コミュニケーションに関する能力について。医療はサービス業です。大抵は自分より年配の方が顧客となり、その方々が満足されるような説明やサービスを提供しなければなりません。予備校では、費用を捻出している真の顧客である「保護者」と対峙したり、応対したりという機会はなかなか与えられない場合も多いです。
適切な言葉遣いについて。電話応対や来客対応、適切な書類の文面などは、実際にやりとりする機会を通して養われていくものです。人と接するときに適切な言葉遣いができなければ、いくら医師として優秀であってもその人間的魅力は半減するかもしれません。
協調性・後輩への指導。一人で仕事をしてそれで完結するアルバイトを選ぶのはもったいないと思います。医療は一人で完結することはありません。必ず他の医師、コメディカルとの協力が必要となります。また、協力する相手が、まだ自分より技量の低い後輩であり、教育的配慮が必要な場面もたくさんあります。
マルチタスキングや全体のマネジメントの能力。医師には患者さん一人を相手していれば済むような状況などなく、常々色々なことに気を配らねばなりません。診療全体が円滑に進行するように統括する義務もあります。ラクなアルバイトではこういう力は養えないかも知れません。
どうせアルバイトに従事するなら、こういった能力を養えるような仕事を与えられるような職種を選ぶことも選択肢の一つではないでしょうか。
もちろん教育関係でも様々な仕事を手広く与えてくれるところはありますが、教育関係に固執する必要はないと思います。自ら表舞台に立たされる仕事、自分より年配の方々とのコミュニケーションが必要な仕事などを敢えて選ぶのもアリだと思います。
賃金を得ることの責任
教育関係、特に、予備校や塾で小学生・中学生・高校生の相手をしているような職種では、お金の流れを実感できる機会が少ないのもデメリットであると感じます。
多くの医師が疎いとされる「お金の話」について考える機会を持てないばかりか、中には賃金を得ることに関してその重大さと責任を自覚しないままに就業している学生も少なくありません。
「子供相手だから」と高を括ったり、「アルバイトだから」とか「誰がやったかわからないし」といって雑な仕事をする人もいるほか、「怒られないから」と平気で遅刻したり、いわゆる「バックレ」するなど、そもそも人としてまずいんじゃないかと思ってしまうような例もあります。
自分の就業によって想像する以上の額が動いていること、世の中の大きな金の動きの中に自分も存在することを自覚し、その見聞を深めるとともに、そこに重大な責任が伴うことを是非自覚できると良いと思います。
その意味でも、教育だけでなく、様々な仕事に興味を持ってアルバイトとして従事してみることも悪くないかもしれません。
まとめ
やや長くなってしまいましたが、以上が医学生のアルバイト事情とこれに関する私見です。
教育関係に就業し「医学生」としてのブランドに頼って楽をするのは簡単かもしれませんが。どうせ仕事をするなら自己研鑽・自己成長にも繋がるお仕事を選ばれてはいかがでしょうか。
(※この記事は、シリーズ「医学部医学科の合格者に告ぐ。」の一部です。)
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