以前の記事では、高校生向けに理数科目の勉強法として、一部の天才が持つ「ひらめき」よりも経験値を増やすことが重要であることを繰り返し強調しました。
経験を積み、引き出しの数自体を増やし、適切な引き出しを適切なときに開くことができるようになるために重要なことは、とにかく「1から10まで自力でできる問題を増やす」ということにあります。
本記事では、
「高校範囲について基礎的な事項(公式・考え方の理解+簡単な演習)の履修が済んでいて、これから入試問題演習を頑張ろうと思っている」
「受験する大学の過去問演習を始める前に入試問題をある程度解けるようになりたい」
「復習の大切さはわかってはいるんだけど、どうしても気が向かない」
という方々に向けた演習方法を紹介します。
そうでない方でも、方法論自体は参考になると思いますのでご覧ください。
準備するもの
問題集+解答解説
各科目、入試問題向けとされる問題集が複数出版されていると思います。先生や同級生の話から、ある程度信頼がおけるとされている問題集で、実際の入試問題またはそれに準ずる問題が収録されていれば、あとは受験する大学のレベルに応じて選びます。
特に東大・京大・医学部を目指すような方にとっては、以上の条件を満たす問題集はかなり限られてくると思います。
ただし、必ず「解説」が含まれているものを選ぶようにします。
各科目で利用する問題集は以下を参考にしてください。
ノート・メモ用紙
理数科目(特に数学)では実際に入試で解答するつもりでノートに記録していくことが重要です。また、以下の方法では解答だけでなく、復習の際にもノートが必須となってきます。
ノートは解答用紙のように最終的に解答を記載するために利用します。これと問題を解く上でのメモや計算は混同すべきではありません(特に数学)。したがって、広告の裏でも、マグネット式のメモボードでもなんでも結構ですので、メモ・計算用のシートを必ず準備するようにします。
問題の一覧(チェックシート)
各問題について、
- 問題番号
- メモ
- 演習日
- 5段階評価
の3点を記載できるような表を作成してください。紙ベースでもデータベースでも結構です。
ただし、同じ問題に複数回取り組むことになりますので、演習日・5段階評価は複数回記載できるようにするか、継ぎ足して記載できるような形にします。
(表の例)
問題番号 | メモ | 演習日① | 評価(1-5) | 演習日② | 評価(1-5) | 演習日③ | 評価(1-5) | ・・・ |
001 | ・・・ | |||||||
002 | ・・・ | |||||||
003 | ・・・ | |||||||
・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ | ・・・ |
238 | ・・・ | |||||||
239 | ・・・ | |||||||
240 | ・・・ |
参考書・教科書
これは大抵の受験生の皆さんは持っていると思います。問題演習を解き進めるうちにわからなかったことを補強する目的ですので、教科書、参考書、予備校のテキストなどなど、必要に応じて準備すれば結構です。
演習方法
コンセプト
最終目標は、該当問題集に収録されている問題、解答解説に頼らず、満点解答できるようになることです。「それではその問題集にある問題だけできるようになって終わりじゃん」と思われるかもしれませんが、効果はそれにとどまりません。かならず引き出しが増え、類似問題を解くときに既視感を覚え、適切な引き出しを引けるようになります。
したがって、語弊を恐れずに言えば、1冊の問題集を英単語の暗記カードのようなイメージで(もちろんスピード感はその何十倍も遅いですが)、できる問題を増やしていきます。
各問題の到達度を把握・管理するために利用するのが、先述した「チェックシート」です。
問題演習1周目
まずは普通に問題を解いていきます。問題を解く順序は必ずしも前からでなくても結構ですし、例えば難易度別に「A問題」「B問題」と分けられている問題集であれば、先にA問題をすべて解き、その後B問題、というように工夫していただいても結構です。
1周目は初見の問題がほとんどという点で、ストレスが大きかったり、自力でできる問題が少なくて自身を失うかもしれませんが、裏を返せば、知らない「引き出し」に出会っているという点で正しい勉強法です。2周目以降の負荷は小さくなるため、1周目が一番しんどいです。ここを乗り切れば先は明るいですのでぜひ頑張ってください。
1周目を実施するにあたり、注意していただくことは以下です。
本番のつもりで解答する!
準備していただいたノートには、入試本番で解答用紙に記載する通りに記載してください。答えだけ見て正解したと安堵したり、途中の論を中途半端に考えてはいけません。
解答に至るプロセスを最も重要視します。
自力で解くことに固執しない!
最初はもちろん解答解説や参考書は参照せずに自力でやってみます。ただし、入試問題をいざやってみていきなりスラスラできる方は少ないと思います。
引き出しが少ない状態で「ああでもないこうでもない」と考えていても時間の無駄です。
自力である程度考えてみてできることをしつくしたら、すぐに参考書で調べるか、もしくは解説を参照します。1周目では「あぁ、そうやればいいのね」と思えればそれで十分です。
解答解説を参照することに良いイメージがない方も多いかもしれませんが、決してそんなことはなく、何も知らない状態だからこそ、最も効率の良い解き方は何なのかを知ることは重要です。
解説が理解できなくても気にしない
解説を見たとして、思うところは3通りだと思います。
①「理解できた!2周目は自力でできるかも!」
②「言ってることの理解はできるけど、なんでそんな考え方を思いつくの!?」
③「解説自体もちんぷんかんぷん(T_T)」
①の場合は問題ありません。2周目で自力でできるようがんばりましょう!
②の場合。解説の意味を理解できれば十分です。なぜその考え方を思いつくの?という問いの答えはズバリ、「解説作成者がその引き出しを持っているから」です。逆に捉えると、皆さんの中にも今一つ引き出しが増えつつあるということであり、2周目以降に自力でできればその引き出しを自分のものにできたということです。もちろん、なんでそう考えるの?と問うことは重要ですが、わからなくても気にせず次に行きましょう。
③の場合。結論を言うと、無視で結構です。もちろん2周目以降では再度チャレンジすることになるので捨てるわけではありません。現状わからないものに固執しても仕方ないので、1周目の段階ではパスし、①や②の印象の問題を自分のものにすることに集中します。
厳しい目で答え合わせする!
逆に、この段階で自力で完璧に解答できたと思ったら、解答解説を参照し、答えだけでなく自分の論が正しかったかどうか厳しい目で確認してください。これで正しければ、その問題はこれ以上演習する意味はありませんので、1周目で終了となります。
チェックシートのつけ方
5段階評価
以上に注意しながら、各問題に対して、その到達度に応じてチェックをつけていきます。私の場合は以下のような5段階評価を多用していました。
5:完全に自力でできた。以降この問題に取り組む必要なし!
4:軽微な計算ミス等考え方とは無関係なミス。以降この問題に取り組む必要はないだろう
3:解説を読んで理解できた。次は自力でできそうかな。
2:解説を読めば理解できるけど、どうしてそう考えるのだろう。次も自力では難しいかな・・・
1:解答解説自体が理解できない!
メモ欄
同時にチェックシートのメモ欄も活用します。数学にしても、化学にしても、物理にしても、問題が長く複雑である場合が多く、復習しようと思ったら一から問題を読み直し、理解して・・・という面倒なプロセスが必要です。もちろん、2周目以降はこういったプロセスで再度問題を解くことになるのですが、それとは別に「ざっとやったことを見直したい、でも時間はかけられない」という場合もあると思います。こういう際に役立てるのがメモ欄です。
メモ欄には、その問題を「5」や「4」に分類できなかった理由を、一般化して記載しておきます。
例えば、
「〇〇の公式がきちんと覚えられていなかった」
「数列の一般項を求めたいとき:一般的に考える→だめなら漸化式を用いる→だめなら予想して帰納法」
「沈澱する・しないの区別のゴロ→参考書Aのp.〇〇参照!」
といった具合です。このように記録しておくことで、わざわざ問題の設定を理解し直さなくても、スクリーニング的に復習することが可能です。
ノートの右側に5cm程度のスペースを設けるように線を引き、その右側に上のようにまとめておくのもオススメです。問題を見て思い出さなくても、ノートの右側だけズラーッとみれば自分が弱いところを復習できます。
問題演習2周目以降
1周目では、各問題について、評価がついて、チェック表メモ欄やノート右側の復習事項も充実してきていると思います。それぞれの評価別に、2周目以降の対応を記載します。
2周目以降も、演習の注意点は1周目と同様です。自分にできることを出し尽くしてムリだと思ったらすぐに解説を読んだり、到達度に合わせて5段階評価をしていきます。
前回評価が「5」や「4」の問題について
前回自力でできたということですので、こういった問題にこれ以上取り組むことによる伸びしろは少ないでしょう。したがって、「5」や「4」の問題は以降解答する必要はありません。パスします。
但し。以降一切解答することはないでしょうから、「5」や「4」と評価する際には、本当に自分が理解していないこと、勘違いがないことを慎重に確認しましょう。
前回評価が「3」や「2」の問題の取り組み方
2周目以降、最も重要視すべき問題です。再度、入試で解答するように取り組み、5段階評価をつけ直しましょう。すでに自力レベルに達している「5」や「4」や、ちんぷんかんぷんな「1」と比較して最も伸びしろが大きい部分だからです。ここを強化することで、「1」の問題も理解が進む場合があります。
前回評価が「1」の問題の取り組み方
前回演習では、解説すら理解できなかった問題たちです。今回も自力ではおろか解説すら理解出来ない可能性が高いですが、一応やってみましょう。
「やってみてやっぱりわからない」の連続では成長しないのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、2周目以降の問題演習では、同時に「3」や「2」の問題が「5」や「4」へグレードアップしていきます。こうして引き出しが増え、知識が増えることで、「1」の問題が「3」や「2」にグレードアップすることが多々あります。
何度やっても理解できない場合には、少し時間をとって考えてみたり、学校の先生等に質問すると良いでしょう。
重要なのは、「この段階まできてはじめて人に頼る」ということです。質問することは、相手が自分に合わせて説明してくれる点では良い勉強ではありますが、時間がかかりすぎます。何でも質問したがる方を時折お見かけしますが、時間を大切に使っていただきたいと思うと同時に、「2」や「3」の問題を優先してアップグレードする方がよほど効率が良いと思います。
最終目標
最終目標はすべての問題を「5」(または「4」)にすることです。
問題によって演習回数は異なると思います。1回目でできる問題もあれば、5回、6回とやってはじめて自分のものにできる問題もあります。
先にも述べたとおり。2周目以降はもちろん「演習」なのですが、英単語の「暗記カード」に似ていると思います。とにかく自力で解答できるようになるまで何度も繰り返して演習します。全く初見の問題を解く2周目以降は、1周目より負荷は小さいと思います。
ある問題集について、すべて「5」に持ち込めた暁には、学力はかなり伸びており、実際の入試問題(過去問)に取り組んでも十分意味のある演習が可能になっていると思います。
問題演習とは別個で行う簡単な復習
複数回記載していますが、テスト前など、「わざわざ問題の設定を思い出すのは面倒だし時間がかかるけど、今まで学んできたことを復習したい」という場合もあると思います。
こういった場合は、メモ欄やノート右側にまとめてきた復習事項をズラーッと読みながら復習するのが最適です。演習として問題を解くとき以外にも、こういった方法で復習されると引き出しが定着すると思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。私は特に、「定期的な復習」が苦手でしたので、仕組み的に必ず全問自力でできるようになる上述の方法は大変有用でした。
とにかく「1から10まで自力で満点答案を再現できる問題を、どれだけ大量に増やせるか」が重要です。
上述の方法で私が行った問題集は数学1A・2Bで1冊、数学3Cで1冊、物理で2冊、化学で2冊です。
その後に過去問演習に突入しました。そこで出会う問題はもちろん初見なのですが、自分のものとなった「引き出し」を多数用意できたことで、それ以降、理数科目で困ったことはありませんでした。
この記事が高校生の皆さんの参考になれば幸いです。
新しく勉強を始めるときの注意点として、以下の記事を公開していますので、ぜひご覧ください!
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