今回は「ターニケット」について紹介します。
「ターニケット」と聞いてもピンと来ない方がまだまだ多いのではないかと思いますが、「AED」と同じく、病院前救護の点で非常に重要なグッズです。
ターニケット=止血帯
ターニケット(Tourniquet)は日本語で「止血帯」と言い、怪我を負って重度の出血をきたしている際に、一時的に出血を止める目的で利用される応急器具です。
擦過傷(かすり傷)程度の傷ならば、出血があっても表面から圧迫止血する(しっかり押さえる)ことで、これを止めることができます。
しかしながら、「深く刺された」「銃で打たれた」「爆発に巻き込まれた」「交通事故で負った傷が深く血が止まらない」「怪我が深く血液が吹き出している」「腕/脚が千切れそう/千切れた」などという重度の外傷では、体表からの圧迫止血が無効で、次から次へと血液が湧き出てくるという状況もありえます。
このような場合には、「緊縛止血法」を行う必要があります。
ちょっと怪しい名前ですが、怪我より心臓に近い部分の腕や脚をキッツキツに縛って圧迫し、動脈の流れを強制的に止め、止血を得る方法です。特に腕、脚に負った外傷に対して有効です。(締め付ける部分が必要なため)
この「緊縛止血法」に利用される専用の器具が、「ターニケット」です。もちろんタオルや布巾などを利用しても良いし、これを利用せざるを得ない場面もあると思いますが、「ターニケット」を用いれば、「緊縛止血」をより効果的に行うことができます。
もちろん一時的な応急処置ですので、ターニケットの装着によって稼いだ時間を使って迅速に医療機関に搬送する必要があります。
ちなみに、筆者はターニケットを大腿部に巻いてみたことがありますが、アドレナリンの分泌が更新していない健常者に適切に巻くとめちゃくちゃ痛いです。
「そりゃ、これだけ巻けば動脈も圧迫されるわ」と痛感しました。
逆に、装着すると決めたら適切に巻かないと、「コンパートメント症候群」などを起こしたりする可能性もあるとのこと。一度は正しい使い方を勉強しておきたいですね。
※コンパートメント症候群:ターニケット の締め付けが弱いと、静脈のみ圧迫され、動脈は開通したままとなる。「血液が入ってくるのに出ていかない」という状況に陥り、これが四肢のある区画に限局して起こると、その内圧が上昇し、細胞障害ひいては組織壊死などに至り、致死的となる可能性もある。
ターニケットの活用例
想像に難くないですが、ターニケットは戦闘・戦地における必需品です。四肢の銃創・刺創に対する応急処置としては大きな威力を発揮するからです。
と言われると、平和な日本においては他人事にも思えるかもしれませんが、そうではありません。
2013年4月15日の「ボストンマラソン爆破テロ事件」を覚えていらっしゃるでしょうか。
ランナーや観戦者が多く集まるゴール付近で2度の爆発が起こり、3名が死亡、282名が負傷したてろ事件です。
最もゴールの多い時間帯を選んで爆破がなされており、その悪質さには言葉もありません。
実は、この事件で活躍したのが「ターニケット」だそうで、循環血液量減少性ショックに次ぐ死亡(つまり失血死)の防止に大きな役割を果たしたとされています。
2020東京オリンピックを皮切りとして、グローバルな環境に向かっていく日本においても、テロ対策をしっかり講じていく必要があります。
さらに「テロ」と言わずとも、ターニケットが有用と思われる場面は少なくありません。
腕や脚の近位部には太い動脈が走行しており、見た目の傷がそれほど重症に見えずとも、実はかなりの量出血するという状況もあり、交通事故を始めとする不慮の事故での活躍が期待されます。
日本での普及例
2019年7月24日、関西国際空港にて、日本の空港としては始めて「ターニケット」が設置されました。
確かに、戦争中というわけでもない日本において「ターニケット」をAED同様に常設とすることはやや意義に乏しいという気持ちが生まれるのも了解できますが、しかしながら筆者自身はこれは非常に重要な取り組みであると感じています。
というのは、四肢外傷による失血死はターニケットがなければ「preventable trauma death」つまり「防ぎ得た外傷死」となる可能性が非常に高いからです。
四肢の大きな外傷であっても、緊縛止血さえ迅速にできれば、その場での出血を一時的にコントロールし、医療機関に搬送する時間を稼いで失血死を防ぐことができます。AED設置の考え方(現場で除細動が可能であることは、致死性不整脈による急死を劇的に減らすことに繋がる)と似ていますね。
「ターニケット1本さえあれば救えたのに」という命があっては非常に悔しいものです。
是非今後、AED同様にターニケットの設置普及や使い方の普及が進めばと思います。
余談
余談になりますが、興味深い本を一冊紹介します。戦闘外傷に対する救護をイラストでわかりやすく説明した1冊で、外傷死について学ぶことができるほか、四肢の重症外傷を含め命を繋ぐ初期対応が紹介されています。
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